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【文字と余白の世界】デザインの完成度を決める、美しい文字組のはなし

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みなさん、こんにちは!広報担当のきらです。

先日、国際的なデザインアワード『C2A Creative Communication Award 2023』において、アートディレクターの五十嵐 祐太さんが2部門受賞。

受賞を果たしたのは、学校案内のパンフレットと、文字のみで構成されたポスターという、いずれも「文字」を中心にした作品となりました。

そこで今回は、アドハウスパブリックの中でもとくに文字にこだわる二人、アートディレクター 五十嵐 祐太さん中澤 洋大さんにインタビュー!

デザインの印象を大きく左右する文字組やレイアウト、余白の考え方など、「文字」にまつわる様々な話を聞きました。



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ー 文字組とレイアウトって、どんなものですか?

五十嵐:僕が思う文字組は「読みやすくすること」ですね。文字の大きさだったり、行間や字間、1行に対しての文字数。そのあたりを読みやすく整えること。

ひろき:文字組って、文字があるものすべてに存在するんですよ。レイアウトは誌面全体を構築するのに対して、文字組は部分的な調整っていうんですかね。レイアウトされた文字の中の細かい調整が文字組ってイメージですね。

五十嵐:あとは紙面の中でどこが大事で、どこを目立たせるかっていう情報整理の意味合いもあるかな。

ー 文字組が整っているものといないもの、どのくらい差がありますか?

五十嵐:例えばこれ、社内の勉強会で使った資料なんですけど。調整してないものとしているもので、このくらい見え方が違うっていう。

▲ 左:文字組を調整していないもの 右:文字組を調整したもの

五十嵐:もちろんそのままでも読めるんですけど、どこまで気をつかって整えるかで、仕上がりの印象はガラッと変わってきますね。

ひろき:デザインによっては、あえて綺麗に整えないデザインも存在はします。ただ、基本は文字組も綺麗に整えるべきかな。そこが抜けていて見た目だけ整えてるデザインだと、仕上がりに差が出てくると思うんですね。だいたい素敵なデザインって、文字組もきっちり調整してあるものが多いですよ。パブリックの先輩ADたちが作ってるものは、みんな綺麗だなと思います。

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ー デザインする上で、文字組ってどのくらい重要ですか?

ひろき:僕の中では、かなり重要。後輩とか若手デザイナーがやってなかったら、絶対直してって言うくらい大事ですね。そこは徹底して教えていきたいと思ってます。五十嵐さんにとっては、もう「魂」くらい大事ですよね?

五十嵐:うん、大事。“デザインの魂は細部に宿る” って教えられたこともありますし。「細かいところまで気を配れるのがデザイナーだ」って、先輩からもよく言われてました。パブリックに入社する前に働いてた会社でも、文字についてはかなり厳しく言われてて。例えば「〜です。」の「す」と「。」の間とか、「100」の「1」と「0」の間は空いて見えるから詰めなさいとか。そういう細かいところまで言われてたので、当たり前にやるものだっていう認識だったと思います。

ひろき:僕も中途入社なんですけど、しっかり意識したのはここに入社してからですね。それまでもやってはいたんですけど、パブリックの先輩たちの文字組はすごく綺麗だったので、それから徹底しようって本気で思いました。中途で入って来た30歳のデザイナーが、できてないって思われるとまずいなって思って...。あんまり先輩たちにも聞かずに、倉庫にこもって先輩が作ったものをひたすら見てました。「あー、詰めてる詰めてる」「全員やってるなー」みたいな感じで。笑 すごい観察してました。

ー ほぼ独学というか、ひたすら見て学んだんですね。

ひろき:そう。なんか、五十嵐さんに聞いても「自分がいいと思えばいいよ」みたいな感じだったんですよ。たぶん僕が中途入社だったからちょっと冷たかったんですよね。笑

五十嵐:いや冷たくない、冷たくないよ!笑 若手の子たちにも同じように言うよ。

ひろき:あとはとにかく、やりながら試すというか。「この位置だと気持ちいいな」とか「先輩はこの位置に置いてるけど、この位置だと僕はこう感じるな」とか。そういうのをひたすらやってましたね。

五十嵐:僕もこの会社に入ってかなり鍛えられたというか、より厳しいなとは思いました。クオリティを求める会社だなって。そこまで見られるのか、みたいな細かいところまで見られてて...笑 でも、それは糧になってますよ。あのとき言われてよかったなって、今は思います。



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ー 普段、文字組やレイアウトについて参考にしてるものはありますか?

ひろき:好きなデザイナーさんのインスタグラムはよく見ますね。そこに載ってる文字とかを見て、嫉妬するっていう。笑 思い切ったレイアウトをしてる人を見ると、こういうのを提案して通せたら、楽しいだろうなって思います。

あとは、美術館にあるフライヤー。質の高いものが揃っているので、持って帰ってきて参考にしたりしますね。レイアウトとか文字組もそうだし、刷り色も見ます。

趣味みたいな部分もあるんですけどね。見てる時間が幸せみたいな。強烈にいいポイントは覚えておくようにして次に活かそうとは思ったりしますけど、80%くらいは見てて楽しいっていう気持ちかもしれないです。

五十嵐:僕は、服屋さんのフライヤーも見ますね。買い物に行ったときに、デザインが気に入ったものがあればもらってくる。小さいショップカードとかも、印刷とか加工が凝ったりしてると持ち帰ってますね。あとは、海外のものばっかり見てます。海外のデザインスタジオとか。あとは、レイアウトとかは『KINFOLK』っていう雑誌。ものすごく綺麗な雑誌なんですよ。

ー 英語と日本語の文字組って、基本は一緒なんですか?

ひろき:いや、違いますね。僕も海外のデザインプロダクションとかのインスタ見るんですけど、「このかっこよさは日本語じゃできないな」って思うことはあります。もちろん、それでもうまくやっているアートディレクターの方もいるので、すごいですよね。

ー 文字組やレイアウトについて、一番影響を受けた人や作品があれば教えてください!

ひろき:これ、五十嵐さんのデザインなんですけど。僕がパブリックに入社したとき、株式会社 鈴木組さんのパンフレットをちょうど試作していて、デザインが壁に貼ってあったんですよ。はじめて見たときに「これはすごい!入ってよかった!」って思ったんですよ。文字だけでバランスが成り立ってて、読んでるとじわじわ入ってくるっていう。すごく感動しました。

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五十嵐:僕は、アートディレクターの平林奈緒美さんが好きですね。ページものだと、テキストの置き方、ノンブルの打ち方、紙面の中での配置だったり、サイズ感、メリハリとか、日本語と英語のバランスとか。参考書みたいになってたりとかしますね。あとは歴代の先輩方ですかね。



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ー デザインしたものは、どんな流れでブラッシュアップしていきますか?

五十嵐:レイアウトは画面上で組みます。手書きのラフを描いたりは、あんまりしないですね。組んだらプリントアウトして、どこかに貼って、いろんな角度から見て検証します。近くで見てるとそんな気にならないけど、遠くから見ると空いて見えるなとか、一歩引いて見てみると全然違うんですよ。そうやって検証しながらバランスを調整していくっていう。

作業より検証に時間をかけろ」っていうのは昔から言われてましたね。それも難しい話なんですけど、単純にそのくらい検証の時間をしっかりとりなさいっていうことなんです。作業の手を早くして、考える時間というか検証をしっかりしようって。

ー 完全に仕上げてから検証しますか?それとも途中で検証することもありますか?

ひろき:僕も紙媒体だったら、プリントアウトして違和感がないかどうか見ますね。僕は一旦、7割くらいできたら出してみます、初稿は。7割くらいでバリエーションを作って、絞ってから文字とかをきっちり整えます。あんまり初稿に時間かけないスタイルですね。

あとは、1日置いてみると違った見え方になったりするんですよ。そこは、僕のお楽しみタイムなんですけど。笑 午前中に他の作業をやって、午後から前日に作ったものをもう1回見るぞ!みたいな感じで、楽しみにとっておくっていう。そこから仕上げていくのが楽しいんですよね。五十嵐さんは、デザインしててどのタイミングが楽しいですか?

五十嵐:うーん、作業中かなぁ。ある程度出来上がると、もうイメージがだいたいできるから。ここに置いた方がいいかな?こっちかな?とか、作ってるときが楽しいかな。でも産みの苦しみは嫌なんだよね。

ひろき:僕はそこも好きですね。いつもお風呂で考えるんですけど、その時間がすごく好きです。「はやくご飯食べて、お風呂に行くぞ!」っていう感じで。笑 にやにやしてますね。

ー 社内でお互いにデザインをチェックし合うこともあると思うんですけど、その工程も大事ですか?

ひろき:大事ですね。

五十嵐:大事。こういう見え方があるんだっていう、自分にはない気づきがありますね。『ダリ版画展』のポスターも2案あって、どっちがいいか全員に聞きました。最終的にこれでいくっていうのは自分が決めるんですけど「こっちはここが際立って見えるよね」とか、いろんな見え方を聞いて検証するのは大事ですね。

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ー ちなみに五十嵐さんは、どの媒体のデザインが好きですか?

五十嵐:ページものが好きですかね。

ひろき:写真集やりたいって言ってましたよね。

五十嵐:うん、あと図録みたいなのとか。写真の置き方とか余白とか、じっくり考えたいです。やっぱり余白も大事なんですよね。

ー 余白って、どうして大事なんでしょうか?

ひろき:例えばこれ、僕が入社してすぐの頃に制作した、株式会社ホリエさんの社史なんですけど。ちょうど世代交代のタイミングで、冒頭のページに社長さんがいるんです。この最初の挨拶で、頭に余白を多めに取ってるんですけど、例えば余白なしで文字が詰まってたら、急いでるように見える。そうじゃなくて、自分の代が終わって一段落して、ほっと息をついてゆっくり語る感じを余白で出してるイメージです。

▲ 株式会社ホリエさんの社史。右ページが余白を活かした文字組になっている。

ひろき:だから、余白もデザインの一部というか。何かを感じてもらえるように「感情を置く」っていうイメージです。表紙も同じで、世代交代の寂しさみたいなものと90年の重みを出したくて、余白たっぷりにしたりとか。表現したいトーンによって余白を作る感じです。

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五十嵐:余白は「間」ですよね。文字のサイズ感、行間や字間、これも余白に関わってくるんですよ。文字のバランスみたいなのも余白。読みやすさを第一に考えて、この文字の大きさがいいなとか、どのくらい空けたらいいかとか、そういうところから文字を組んでいく。文字組とレイアウトから、意図的に余白をつくっていく感じですね。

あとは「余白が怖かったら、白地じゃなくて色を敷け」って言われたこともありました。白地で空いてるのと、ベタ色になってるものだと印象が違うんです。色が入ってると埋まってる感じが出るんですよね。



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ー 今日「文字組みとレイアウト」をテーマに話してみて、お互いについて気づいたことはありますか?

ひろき:文字愛みたいなものでいうと、五十嵐さんが100としたら、僕はたぶん50ぐらいですね。五十嵐さんの文字組を見てるとすごい綺麗だなと思うんだけど、僕は詰め方がまだそこまで到達できてないなと思う。

五十嵐:僕は逆にもう、危機ですよ。みんな、綺麗なレイアウトができるので。その中で僕はどうやって生き残っていこうか?ってなると、細かいところを一生懸命に詰めていくとか、細部に魂を宿していくしかないみたいなことは思いますね。笑

ひろき:でも五十嵐さん、アイデアも持ってるので。綺麗な文字組とアイデアが、五十嵐さんの強みだと思う。とくにアイデアの部分は、他の人じゃ作れないと思うな。口で説明できない部分というか...センスですかね。

あと文字組に関しても、五十嵐さんはみんなと次元が違う感じがします。今まで積み重ねてきたものがあるんでしょうね。僕らがやってもなかなか難しいところまで来てると思います。

さっき五十嵐さん、「みんな綺麗なレイアウトができる」って言ってたじゃないすか。たぶん、みんな一定のラインまではいけるんですよ。でも、そこから1段階上の綺麗さって、誰にでもできることじゃないと思います。

五十嵐:ひろきは、挑戦しようという意欲がすごいなって。僕はどちらかというと、今までの自分の経験値から考えることが多くて、あんまり大きなチャレンジはしなかったりするから。そんな中でひろきは、いろいろチャレンジしようとしてて、すごいなって思う。だからこそ、いろんなテイストにも上手く対応できるんだろうな。

ひろき:でも最終的には僕も、絞ろうとしてるんですよ。いろんなものにチャレンジできるかどうかって、これから衰えていくんだろうなと思ってるので...最終的には強みで一本化しようって。晩年にはね。笑

ー 文字組に苦手意識がある人に、何か伝えたいことはありますか?

ひろき:僕は本当に、文字組はデザインの基本だと思ってます。絵かきで言うデッサンみたいな。ピカソって人物の変わった抽象画を描くけど、デッサンもすごく上手いんですよ。だから文字組なくして、次の段階にはいけないんだろうなって思いますね。超大事な土台って感じ。あとは、楽しむのが一番力になるから、文字組を楽しめるようになるといいですね

五十嵐:僕からは... “余白を活かして、心に余裕を。” 余白をうまく活かすことで、余裕感のあるデザインになる。だから「余白は恐れるな」って伝えたいですね。

中澤 洋大(AD) / 五十嵐 祐太(AD) / 吉楽 香菜子(取材・執筆)
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