“新しい風”を取り入れながら進む。『にいがた総おどり』デザインの現在地
みなさん、こんにちは!広報担当のきらです。
今年9月16日(土)・9月17日(日)に新潟市で開催された『にいがた総おどり』 アドハウスパブリックでは、2012年からメインビジュアルのデザインを担当しています。
今年で11回目となったビジュアル制作について、アートディレクターの柳橋 航さんとデザイナーの谷 利華音さんにインタビュー!これまでの歴史やアドハウスパブリックのデザイン制作過程など、じっくり聞かせてもらいました。
『にいがた総おどり』デザインの変遷
ー『にいがた総おどり』のデザインはいつから担当されているんですか?
柳橋:総おどりさんのデザイン制作は、2012年から始まったんですよ。それから毎年ビジュアル全般の制作をご依頼いただいて、今年で11年目になりますね。ちょうど僕が入社したのがその年で、初回から携わらせてもらってます。
ー これまでのデザインはそれぞれ誰が担当しているんですか?
柳橋:はじめの2012年から2015年までは、僕がデザインしてます。 2012年は、2パターンのデザインがあるんですよ。当初は1パターンの予定だったんですけど、お見せしたらどちらも気に入ってもらって、サイズ違いで使っていただきました。
そのあと2016年〜2019年は僕や五十嵐さんが担当して、2020年はコロナ禍で小規模の開催だったのでビジュアル制作はおやすみしました。
2021年は、はじめてイラストのデザインになりました。デザインが僕で、イラストは安さん。この年から若手メンバーにも参加してもらって、みんなでデザイン案を出してます。
『にいがた総おどり』を運営している株式会社Sightさんは、「日本の文化を未来に繋いでいきたい」っていう熱い想いでこのイベントをやってる方々なんです。ただの踊りのイベントっていうよりは、残すべき文化をちゃんと後世につないで、子どもたちに継承していきたいっていう。
そういう背景もあって、「イベントを見に来てくれる人を増やそう」という目的に加えて、次世代を担う子どもたちや若者の「踊り手側」の気持ちに立った画作り(イラスト)やキャッチコピーを提案したんですよ。
2022年と2023年は、りかねのデザインになります。 2022年はりかねが入社1年目で参加して。僕と五十嵐さんと3人でそれぞれデザインを提案したところ、見事、りかねのデザインが採用されました。
ー デザインに対して、お客さまからはどんな反応がありますか?
柳橋:いつも喜んでいただけますし、いろんな場面で「このポスター見たことある」って声をいただくことも増えました。『にいがた総おどり』って、全国から人が集まる規模の大きいイベントなので、このイベントに携わらせてもらえるっていうのは、僕らにとってもありがたいですね。
若手デザイナーの視点を取り入れるワケ
ー 2022年から、みんなでデザイン案を出し合っているとのことでしたが...そういう体制に変えたのはなぜですか?
柳橋:僕の方から、チームでやらせてほしいって言ったんです。新しい風を入れたいなと思って。それまでは、1つのビジュアルに対して何パターンも案を出すっていうのを僕がずっとやっていたので、どうしてもアイデアが凝り固まってきちゃう部分もあると思っていて。
あとは何よりも、お客さまのためにちゃんと効果があるものにしたいので。来場者の方々も世代が移り変わっていく中で、デザインにも新しい風を入れる必要があるし、そのためにみんなの力が必要だって思ったんです。自分にない視点を取り入れられるのは、かなり刺激になってますね。
ー 社内のデザイン制作は、どんな流れで進めているんですか?
柳橋:まずはじめに、お客さまと直接お話ししてイメージをお聞きします。ここは制作に携わるメンバーにも、なるべく参加してもらうんですよ。あとから僕が説明するよりも、お客さまの言葉でニュアンスを掴んでほしい部分もあるので。
そのあと、社内で集まって認識のすり合わせですね。打ち合わせでこんな話が出ていたよねとか、これってこういう意味だよねとか。今までの経験からこういうことじゃないかな、みたいな話をしながら方向性を確認し合います。
みんなの認識を合わせたら、ラフ(原案)を作ってもらって「こういうデザインにしたいです」っていうアイデアを一旦報告してもらいます。イラストを制作することもあるので、万が一ちょっと方向性がずれていたときに、作る時間を無駄にしちゃってもったいないんですよね。だからおおまかな方向性が決まってから、仕上げていく感じ。まずはラフを見ながら「これいいじゃん」「これ展開しようよ」って決めて、作ってもらいます。そこまでの期間は短いですよ、長くても1週間とか。
りかね:そうですね。その打ち合わせまでに色々な案を考えて、その中から特にこれがやりたいっていうのを2つ持っていきます。他の案件だとそこでまた修正することが多いんですけど、総おどりさんの場合は「じゃあそれで作ってみて」ってなることが多いです。
私の場合はまず、マインドマップみたいな感じで言葉をつないでいくんですよ。総おどりさんの場合はキャッチコピーも一緒に考えるので、言葉からイメージを考えて、イラストのタッチ見本みたいなものも一緒に探して、提案する感じです。
ー デザインと一緒にキャッチコピーも考えるんですね。
柳橋:そうなんです。ラフの段階ではきっちりとしたキャッチコピーじゃなくてもいいんですけど「こんなことを言いたくて、こういうビジュアルにしたい」みたいなすり合わせはします。あとは何人かで一緒にやるので、ほかの人とテーマが被ってないかだけ先にチェックする意味もあります。
そこから仕上げてもらって、完成したらみんなでデザイン案を持ち寄ります。「こういうふうにも見えるね」とか「こういう言い方の方が伝わるんじゃない?」とか、いろんな意見を交換して。そこでブラッシュアップするものもありますが、基本的にはお客さまに出すための最終調整ですね。そこからもう1回直したりとかはほとんどないかな。社内でガラッと修正をお願いしたり、根本から覆すようなことはないですね。できるだけデザイナーの自由な発想を残したほうが、お客さまにも喜んでもらえるので。
りかね:もしその段階で何か迷ってることがあれば、その場に何パターンか持って行って、意見聞いたりもしますね。
ー 先輩後輩は関係なく、みんながみんなのデザインに意見するんですか?
柳橋:はい、僕からじゃなくて、みんなの意見から聞くようにはしてます。言いにくいですよね、先輩のデザインに対する意見とか。笑 りかねなんかは結構言ってくれますけどね。
りかね:そうですね...私はわりと言うタイプかも。笑
ー りかねちゃんは、誰かに言われて「なるほど!」って思ったことはありますか?
りかね:2022年のポスターは、はじめに柳橋さんに見せたとき、奥の雲と周りの白い波動みたいなのがなくて。「奥行きとか遠近感がでるように、こういうの入れてみたら?」って言ってもらいました。それはすごく重要だったなって、よく覚えてますね。
ー 柳橋さんは、若手のみんなのデザインを見て「思ってたのと違うものが出てきたな」って感じることもあるんですか?
柳橋:どちらかというと、それを狙ってたりするんですよね。自分が思っているのと違うものが出てきてほしいっていう想いが強いです。
ー みんなのデザインを見るときや意見交換するときって、どんなことを意識していますか?
柳橋:出てきた案に対して、あんまり具体的に指摘したりはしないかな。なんかちょっと弱いからもうちょっと強くしてほしいとか、そういう抽象的な意見を言うことはありますけど。例えば「この紫はやめて」とか、そういう具体的なものは言わないようにしてます。お客さんにも基本的には全部見てもらいます。
さっき言ったように新しい風を入れたいっていうのと、彼ら彼女らにも、いろんな経験をしてほしいって思うんです。お客さまも自由に意見を言ってくれるからこそ、自由に受け止めて、自由にやれる案件でもあるので。最終的には1個しか選ばれないんですけど、自分のデザインが採用される確率も高いので、チャンスもありますからね。
ー デザイン案をお客さまにお見せしたときって、どんな反応が返ってきますか?
柳橋:ありがたいことに、喜んでいただいてますね。うちのメンバーはみんなすごく一生懸命考えるし、ちゃんとコンセプトのある絵作りをするので。ただ「かっこいいからやりました!」みたいなものじゃないから。ちゃんと意味があるデザインだからこそ、すごく喜んでくれますね。最近はとくに若い方に向けたビジュアルにどんどん変えているので、若い人の感性で作ってもらえてありがたいって言ってくれます。
ー 「意味のあるデザイン」ってパブリックの強みでもあると思うんですが、どんな風にみんな習得していくんですか?
柳橋:若手のメンバーには特に、お客さまに出す前の社内でのすり合わせで必ず聞くんですよ。どんな意味や目的でこのデザインにしてるのかとか、聞いて出なかったら「何で?」って考えて言語化してもらうっていうのはあります。
3年くらい前から、うちもブランディング会社としてしっかりと打ち出していることもあって、そういうデザインをいいなと思ってきてくれたメンバーが今の若手メンバーなんです。だから、なおさら根本の部分というか、言語化をちゃんとできる人が多いのかなと。りかねたちも、そもそもそのマインドで入ってきてるんでしょうね。
りかね:そうですね。パブリックは本物のデザインをしてるなと思ってて。ちゃんと一つひとつに意味があるというか。そこも含めてやっぱデザインだなと思ってますね。
デザイナー1年目で掴んだチャンスと、2年目の成長
ー りかねちゃんは去年デザイナー1年目にして自分の案が採用されたんですよね。実際、先輩と肩を並べてデザインしてみてどうでしたか?
りかね:自由にやらせてもらったから、すごく楽しかったです。大学生の頃からこういう色合いをよく使ってて、原色じゃないちょっとずれた色が好きなので。若者向けっていう方向性と自分の趣味が合った感じもあって、個人的に好きだったものを出せて嬉しいなって思います。あとはキャッチコピーも大学でちょっと習ってたりしたので、自分の今までがいろいろ活かせて良かったですね。
みんなで持ち寄って見せるときは、すごく緊張しました。でも先輩のデザインを見て、全部が驚きというか。自分じゃ思いつかへんから「そういうのがあるのかぁ」っていう勉強になりました。正直、私は結構自信あったんですよ、このとき。笑 全力を出し切って、自分の中で1番いいものが作れたなっていう感じがあったので。
ー 柳橋さんは、りかねちゃんのデザインを見てどう感じましたか?
柳橋:面白いなと思いましたね、やっぱり。それこそ、僕はあんまりやらないテイストなので。これも、りかねたちにはすごく新しい感じだと思うんですけど、僕ら世代からするとちょっと懐かしい雰囲気だったりするんですよね。若者がテーマでこのデザインを作ってくれるっていうのは、あんまりない発想だったので。そういうのはすごく面白いです。毎回刺激になりますね。
りかね:ありがとうございます!パブリックはデザイナーごとの色が全然違うから、各々からいろんなものを吸収できますよね。自分が好きなところをちょっとずつもらえるので、すごく面白いです。
ー 自分のデザインが選ばれたときは、どんな気持ちでしたか?
りかね:めっちゃ嬉しかったです。提案したあとも「どうやろな〜?」ってずっとドキドキしてたので...。
ー 自分のデザインが選ばれるかどうかってやっぱり気になりますか?
柳橋:気になりますね。みんな口には出さないけど、自分以外の誰かのデザインが採用されたら、悔しいって思ってると思います。笑 総おどりさんに限らずですが、やっぱりみんな自分のを採用してほしいですよ。「おめでとー」って言いながら、きっと内心は「くそー」って思ってるよね。笑
りかね:そうですね。あと今年提案した柳橋さんのデザインは、めっちゃ勝ちに来てるなって思ってました。笑 デザインは柳橋さんなんですけど、イラストは菜生さんに頼んでめっちゃかっこいい絵があがってきてたので。私は「ずるい!」ってずっと言ってましたね。
柳橋:それが、アートディレクションですからね!笑
ー 今年もりかねちゃんのデザインが採用されてますが、今年のデザイン制作はどうでしたか?柳橋:今年は、若手を中心に僕を含め4人で案を出したんですけど、途中で方向性が変わったこともあって、一旦全てなしになってしまって...。当初は若い人向けのデザインを軸に作っていたんですが、原点回帰というか「総おどりらしさ」「日本の力強さ」などのワードをもとに作り直すことになったんです。
ただ期限も迫っていたのでどうしようかなっていうときに、去年の案を見せてほしいってお客さまから言われてお見せしたら、1年前にりかねが作ってくれた蝶のデザインを気に入っていただいたんですよね。 今の仕上がりとはまた全然違うものだったんですけど、それをもとに何パターンか出すことになって。
りかね:私の中では作り切ったものを変えていくのが難しくて、かなり苦戦しました。「非日常を冒険する」っていうようなテーマもあったので、そこに合わせて色・角度・サイズの検証と、キャッチコピーの検証、それぞれ試していろんなパターンをお見せして、今のデザインにたどり着いた感じですね。
ー りかねちゃんは1年前に新卒で挑戦したときと、2年目の今年とで、変わったなと感じることは何かありますか?
りかね:結局採用はされてないんですけど、自分の中で納得のいくものを2案ちゃんと作れたなっていうのはありました。去年は7:3くらいで採用された方にかなり力を注いでたので...。笑
今回は5:5くらいで、どっちもちゃんと出せたと思います。制作期間は一緒なので、その中でアイデアから仕上げるまでとか、手の動かし方とか、良くなった部分もあるかなと。「めっちゃ成長した!」とは思ってないんですけど、ちょっとは成長した、かな...?
柳橋:総おどりさんに限らず、すごく成長はしてますよ。もはや脅威です。笑 だから良いんだろうなと思いますけどね、刺激になるというか。いずれ僕がやっているようなお客さまとのやり取りも自分でやるようになっていくと思うので、そうなると大変でもあるけど、より面白いかなと。期待してます!
ー 最後に、『にいがた総おどり』のデザイン制作への想いを聞かせてください!
りかね:初めて自分のつくったものが世に出たお仕事だったので、思い入れはありますね。一番実感したのはイベントの当日ですね。会場にめちゃめちゃ貼られてたんですよ。ポスター自体はイベント以前に見てたんですけど、実際に人が見てるっていう状況を目の当たりにしたときは「お〜!」って感じでした。ちゃんと見てもらえてるなって、嬉しかったですね。
柳橋:僕もすごく思い入れというか、思い出というか、いろいろな想いがあります。僕の代表的な制作物としては、やっぱり『にいがた総おどり』がずっとありますね。こちらの自由な提案を受け入れてもらいながら10年以上変わらずにやらせていただけていることも、ありがたいなと思います。
柳橋 航(AD) / 谷 利華音(D) / 吉楽 香菜子(取材・執筆)